建築を「金属の美」で纏う仕事。 最近の代表的な施工事例をご紹介します。
建築を「金属の美」で纏う仕事。 最近の代表的な施工事例をご紹介します。
仕上と加工。徹底したディテールへのこだわりで目指した、東京のランドマークにふさわしい完成度。麻布台ヒルズ | AZABUDAI HILLS
仕上と加工。徹底したディテールへのこだわりで目指した、東京のランドマークにふさわしい完成度。麻布台ヒルズ | AZABUDAI HILLS

建築家トーマス・ヘザウィック氏の理想

麻布台ヒルズの土留めに、株式会社フロントの製品「ZCFC仕上」が使われています。低層棟や緑豊かなランドスケープをデザインした建築家トーマス・ヘザウィック氏は「複雑性は人々の感情に働きかける」と語っており、直線ではなく曲線、平らではなく粗い表面を採用。ZCFC仕上がもつ表情はその複雑性を演出し、平面の部分に立体感を生み出しました。自然環境に調和しながらも人工物である金属の質感がアクセントとなり、全体を統一する重要な役割を果たしています。
ZCFC仕上に用いられている独自の特許製法「FRONT CRAFT」は、同じ表情のものが存在しない豊かな表現力があり、麻布台ヒルズでもその魅力を存分に発揮しています。

株式会社フロントはプロジェクトを通して「徹底的にサンプル作りにこだわる」という信念を貫き、金属デザインの可能性を追求しました。勾配が大きく、ラウンドフォルムの多い土留めの製作は難易度が高いもの。最初のサンプル作成時には、ZCFC仕上の良さである研磨表情が見えにくいという課題がありました。そのクオリティで妥協できない私たちは、溶接・曲げ加工・サイズの工夫など、全てディテールに徹底的にこだわって10数種類のサンプルを提示。その姿勢と完成した品質に設計事務所からもお褒めの言葉をいただきました。

板厚を大きく見せるための試行錯誤

サンプル作りで見せた強いこだわりは、実際の施工では一層強くなります。製作・仕上過程で何ができるか、できないかを見極め、限られた条件のもとで私たちのベストを尽くしました。例えば、土留めに使われている板を溶接加工で本来よりも厚く見せることで重厚感を演出していますが、板厚を大きく見せるための溶接というのはこれまでフロントに前例がなく初めてのチャレンジでした。試行錯誤を繰り返しディテールにこだわることで1枚板とは違う趣きを生み出し、それが麻布台ヒルズにふさわしい高級感を醸成しています。

株式会社フロントはこのプロジェクトを通じて、首尾一貫した製作・仕上への想いを追求することができました。ZCFCによる奥深い仕上や細部へのこだわりで、自然と調和する風合いを実現したからこそ、「緑あふれる広場のような街」を標榜するこの新しいランドマークの植栽をまとめるという大役を担えたと思っています。

時とともに移ろう自然錆のアートが 富山の四季を鮮やかに彩る。富山新聞高岡会館 | Toyama Shinbun Takaoka Kaikan
時とともに移ろう自然錆のアートが 富山の四季を鮮やかに彩る。富山新聞高岡会館 | Toyama Shinbun Takaoka Kaikan

富山新聞の創刊100年を機に計画されたこの富山新聞高岡会館は、日本を代表する建築家・谷口吉生氏が設計を手がけました。この施設のラウンジ東側の水庭には、自然錆の3メートルのパネルが水盤から聳え立つように並んでいます。谷口建築設計研究所の担当の方は、フロントの持つ耐候性鋼板と錆に対する知識と経験を信任してくださり、このパネルの製作にお声かけくださいました。

打ち合わせで錆について細かくご説明をしていく中で、「錆の出方」について1つの課題が挙げられました。通常、耐候性鋼板は施工した後に現場で錆を出すことが一般的です。しかし今回の場合、錆が出た状態で竣工を迎えることをご希望されていました。そこで、酸洗いで黒皮を落とした後、錆出し剤の「R Chemical」を塗布し熟錆させる、「Rusty R」というフロント独自の熟錆仕上をご提案いたしました。このRusty Rであれば、錆が美しく出た状態で竣工を迎えることができ、かつ錆の飛散や錆汁が流出といった耐候性鋼板の問題点を軽減することも可能となりす。

Rusty Rをご採用後には、2か月の熟錆期間にご担当の方に錆の出方を確認いただき、さらに、1枚ずつ表情の異なる錆パネルの並びの組み合わせに検証を重ねました。

また、今回は錆のはがれを考慮し、錆面には触れないようパネルの扱いには細心の注意が必要となり、1枚が横1.5メートル、縦3メートル、厚さ9ミリの重量パネルの取り付けには苦戦しました。そして「パネルの目地は必ず6ミリに」という難易度の高いこだわりにも柔軟に対応することで、錆の表情だけでなく納まりの面でも設計事務所の皆様にご納得いただき、雑誌「新建築」の表紙を飾る出来栄えとなりました。

こうして製作されたフロントの自然錆パネルは、経年による表情の変化で富山の四季折々の景色を彩り、心安らかなひと時を過ごすことのできる空間づくりに貢献していきます。